何が問題視されているのか
ことの発端の一部は、Twitter日本法人のレイオフにからみ「話題を検索」タブの “ニュース” でのモーメントの掲載で、媒体側からTwitter側へのホットラインがあったという話です。
また、これに合わせて “ニュース” とは別のおすすめ、ないしトレンド枠に掲載されるトピックについても「操作されていたのではないか」との疑義が生じているようです。
内部事情に詳しいわけではないのですが、メディア系プロダクトのコンテンツ、PdMを担当してきたこともあり、この話題について書いてみようと思います。
自己開示
私、山口亮はYahoo!JAPAN → BuzzFeed Japan → スマートニュースという経歴です。BuzzFeed Japanにおいては立ち上げメンバーの一人で、SNSやニュースアプリへのコンテンツ配信を含むグロースを担当していました。
現在はメディア業界を離れ、人材業界でPdMとして働いています。
BuzzFeed JapanではTwitterのキュレーションチームの方と(記憶している限り)1度だけお会いしたことがあり、そこでモーメントのご紹介と同チームへのホットラインについてのご案内をいただきました。
作成したモーメントについての掲載確約という話はなく、あくまでもピックアップする/しないの基準はTwitterとして有するという旨をご説明いただきました。「Twitterにおけるキュレーション」ページで記されているような基準ですね。
その後、BuzzFeed Japan側から作成したモーメントについて連絡することはありましたが、金銭のやり取りはもちろんなく、連絡の有無に関わらず、必ずしも掲載されるというものではありませんでした。
ほかメディアの編集部とどのようなやり取りがされていたのか、同様のご案内をしたのかしていないのかは把握していません。
なぜ特定メディアのみが掲載されている(ように見える)のか
前提として、ここ最近で特定メディアのみが実際に優遇して掲載されているのかどうかは具体的には把握していません。キューレーションチームが発足した当時は(おそらくは)在庫の問題から、特定のメディアのみが結果的に掲載されているということはあったかもしれませんが、現時点で編成方針がどのようにして偏っているかは確認ができません。
推察するに批判の遠因的な根本原因となっているのは、「モーメントになったものしか掲載できない」という事情にあったかと思います(おそらくモーメントしか掲載していなかったはず。これはプロダクトの仕様をめぐる制限でしょう)。
モーメント作成に一定のリソースを割き、良いものを作成さえすればキュレーションチームが検討の上で、基準を満たせばピックアップしてくれる。そのことを理解しているメディアのみ、 “ニュース” タブには掲載されうるという構造になっていたはずです。
結果的に、そのようなリソースを用意できる、つまりSNSでの配信に重きをおく積極的なメディアのみが掲載されていたと言えるでしょう。単に先駆けてモーメントを作成し始めたメディアが多く掲載されていた時期があった、ということかと思います。
問題はなかったのか
ただし、上記のような原因があったとしても、問題がなかったかというとそのようなことはありません。2つ、批判されうる/論点になりうるポイントを記載します。
キュレーションチームのポリシーなどは公開されていたが、仮にコンテンツの在庫が偏っていた場合に、その「偏り」を解消するためにどのようなアクション/コミュニケーションがされてきたのか、それは十分だったのか
ポリシーなどが公開されていたとはいえ、その開示は十分に流布されていたのか、人が介入するというユーザーの認知は果たして十分だったのか
実際のピックアップが何かしら偏った方針によってなされていたのかどうかは、ここでは確認できないため論点からは除きます。何か具体的な論拠を持って述べるのが適切だろうと考えます。
「偏り」解消のためのアクション、コミュニケーション
モーメント作成を促す戦略的な打ち手として、メディアのモーメントを(初期は)積極的にピックアップするということがおそらくあったかと思います。これは完全な推察です。
全てのメディアが平等にリソースを割いて作成してくれるかというと、現実的には各メディアの方針/戦術もあり難しいのが実情だったのでしょう。実際のところは段階的にならざるを得ず、いま時点でも積極的ではないメディアはいるように思われます。
ただ、このような広くユーザーに使われるプロダクトにおいて、結果的に「偏っている」と指摘されてしまう事態は避けるべきです。その課題を解決するために、偏ったモーメントの在庫を解消するために何か積極的にメディア・コミュニケーションをやってきたのか、というところが批判の対象になりそうです。
これは、中の人にしか実際のところはわかりませんが。
何かできることがあったとすると、各メディアに対して一定のモーメント作成を実施してくれる場合には、xx円までの広告枠を活用しアカウントのグロースをサポートする――といったことが初期においては検討できたかもしれません。
もしかしたらすでに上記のことを交渉した結果、モーメント作成してくれなかったということかもしれませんが、例えばそのような打ち手で一定のモーメントを確保する、ということは検討できます。
また、キューレーションチームではオリジナルのモーメントの作成も手掛けていたはずです。コンテンツに対して何かしら偏り(とされるもの)が生まれうる場合に、自分たちで作成したものでバランスをとるということも検討の余地がありました。
ただ、この場合には「特定のメディアについて、プラットフォーム側がモーメントを作成して誘導している」というまた別の批判が発生しうるので、センシティブな話題にのみ限定するなど考慮する必要はあるでしょう。
開示とユーザー認知
今回の批判の裏側にあるのは、そもそもキュレーションチームに関するユーザー側の前提知識だったように思います。つまり、アルゴリズムで選ばれていたと思ったものは人が選んでいた、という驚きです。
この点についてはすでにホームページで部分的に公開されている情報ではあるものの、確かに広く一般ユーザーが理解していたかというと、そうではないでしょう。モーメントのガイドラインと方針と開示されているものもありますが、キュレーションチームが取材を受けたり、逆に積極的に公の場に出てくるということも多くはありませんでした。
朝日新聞で記事になったことはありますが、どれだけ読まれていたかはわかりません。
またキュレーションチームが選んだものがどれで、アルゴリズムが選んだものがどれかという透明性があったかというと、その観点でも見分けがつかないというのは現実かと思います。
必ずしもそのようなラベル付けをしなくてはいけない、という話ではありませんが、これについてはむしろアルゴリズム/プロダクトの透明性というトピックの重要性を感じます。この手の “transparency” は世界的にホットですね。
話を戻すと、何かしらよりユーザーの理解を促す、共通理解を作るための積極的なアクションはあったんじゃないの、ということです。これは単なる広報に留まらず、ユーザーからリーチしやすい場所にヘルプページへのリンクを提供することや、そもそもプロダクトとしてより透明性を担保する、ということにもなります。
プラットフォームなのか、メディアなのか
この話の延長線には、Twitterはプラットフォームなのかメディアなのか、という論点も存在します。アルゴリズムだけではなく人が編成をしている「メディア」には責任が伴い、その編集権や体制は厳しく評価/批評されるべきである――という。
ただ個人的には、プラットフォームで人力を排しているから責任がない/軽い、またはアルゴリズムだから事情は異なる、というのは時代にあっているかというと微妙な気がしています。
アルゴリズムにも “意思” は込められています。何を重視するのか、何を重視しないのか、何を掲載して何を掲載しないのか。裏側に人がいようがいまいが、すでに月間数千万人が利用しているTwitterは相応に責任が問われるサービスであると感じます。
トレンドは「操作」されていたのか
これについては、「操作」という言葉の強さでやや印象で論じられているところもある認識です。何度もこちらでリンクしているTwitterのヘルプページでも、トレンドをモデレーションすることはある旨が記されています。
それを「操作」というとそうなのかもしれませんが、その「操作」がモデレーションなのか、なんらか偏った思想による編成なのかは分けて考える必要があるでしょう。
こちらも背景にあるのは「アルゴリズムで選ばれていると思ったのに」という驚きのように感じます。
ここで言えるのは、アルゴリズムだけだと逆にリスクをはらむということです。
Twitterのトレンドは基本的には機械学習(とほんのちょっとのルール)でトピック生成しているかと思うのですが、特にSNS/UGCのようなプロダクトにおいては人間が予測しないような事態が発生することがあります。
例えばヘルプページで記載されているように、「冒涜的な言葉や、成人向けや性的な内容についての言及が含まれる」ケースや、「重大な犯罪の被害者や未成年者のプライバシーを標的としている(私人の場合)」ケースなど。
アルゴリズムだけに頼って人力を完全に排した場合に、上記のようなリスクを野放しにすることになるのですがそれっていいんでしたっけ、ということですね。
そのようなポリシー違反をめぐるモデレーションもあれば、別に多様性を担保するために「まとめる」ということもあったかと思います。これも私の推察に過ぎません。
同様の話題がトピックに並んだ場合に、それがズラリと占拠してしまうことを許容するのかどうか、特定のトピックに整理した上で多様性を担保して提供することのほうがユーザーにとって嬉しくないか、といったような観点ですね。
トレンドの悪意をもった「操作」については、現時点で疑義が生じる具体的な事例がどう生じていたのかわからないため、ここでは言及を避けます。
個人的な所感としては、アルゴリズムに100%頼らない方がいいんじゃないの、という印象です。
透明性をめぐり
長々と書いてみたものの、今回の件をめぐり透明性について改めて焦点が当てられているように感じます。
これは編成方針に関する透明性でもあれば、プロダクトの裏側でどのようにしてコンテンツが選定されているのかという仕組みに関する透明性でもあれば、個別のOpsに対する透明性でもあります。
成長に直接的につながるわけではないものの(たぶん/残念ながら)、信頼性を担保する上では重要なものについて、社内でどのように位置付けて改善していくのかは、かなり上層部の方針が左右すると思います。
そういう意味ではイーロン・マスクが現時点でそこを重視するとは思えず、今回のような透明性(など)をめぐる問題はすぐには解決されないでしょう。そもそもキュレーションチームは解散したようですし。
願わくばできるだけ長く品質が担保されてくれたらとは思うのですが、難しいかもしれません。
この手のモデレーションを担うOpsは花形ではないかもしれませんが、プロダクトの品質を担保する重要な役割を担っています。現実的には、少しずつ品質が悪化し、気がついたら思いもよらぬコンテンツが掲載されていました、という結果になるかもしれません。
ともあれ、Twitter/インターネット上では不正確な情報/思い込み/誤読などによる批判が見られます。できるだけ確たるエビデンス、またはそれに足る考察に基づいて判断/批判されることを望みます。
加えて、この手のプラットフォームをめぐる話題について、プラットフォーム側からのコメントをできる方が少ない、というのも問題を混乱させている要因だと思います。
インターネットにおけるメディア環境をめぐる重要な論点であったため、残念ながらキュレーションチームは解散してしまったようですが、ここで整理した上でコメントを残しておいたほうが良いと考え、こちらでポストしました。
今日はそんなところで。